よもぎの熱水蒸発成分の効用

李 順姫

よもぎは日本列島や朝鮮半島に広く自生するキク科の多年草です。古来より食用・薬用として使われていました。現代でもよもぎ餅、よもぎ団子、よもぎパンなどは健康増進食品として人気のある食品です。

薬用としては葉をすり潰して傷薬にしたりしていました。お灸に使う〈もぐさ〉も、このよもぎの葉です。漢方では艾葉(ガイヨウ)と言って、下痢、吐血、婦人漏血などの治療に使われ、芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)は、痔の出血、子宮の不正出血、血尿などの治療に使われます。ヨーロッパでも薬用香草として、生理不順や不妊の治療に、またリュウマチの緩和にも使われています。

近年の研究成果として報告されているところでは、動脈硬化の改善が認められています。これはよもぎの抽出成分が血液中のヒトLDL(悪玉コレステロール)を阻害するため、結果的に動脈硬化を予防する(注1)というもので、心筋梗塞や脳梗塞の予防にも繋がります。

よもぎの使い方としては、食用、飲用、塗布、燻蒸(くんじょう)あるいは蒸気浴、入浴用などがあります。また、よもぎの精油を基剤となるオイル(白胡麻オイルとの相性が特に良いようです)に混ぜて、マッサージオイルとして使ったり、ペースト状にした若葉とオイルで顔や肌のパックとして使ったりします。細胞の復元力に優れたよもぎを使うことで、美容効果としても目覚ましいものが見られます。

よもぎの正しい使い方

ここで注意したいのは、食用、飲用には若葉を用いますが、肌、粘膜の燻蒸、蒸気浴、浴用には発酵よもぎを使うということです。

これをまちがうと、あまり効果がありません。発酵よもぎを使う場合、熱水処理して得られる抽出成分の薬効も大きいのですが、蒸発成分に含まれる揮発性の芳香成分にこそ、肌、粘膜から吸収され、作用する細胞復元力、殺菌調整作用、排毒作用、造血作用があるのです。

こうした作用を効果的に得るため薬草座浴〈よもぎ蒸し〉には5年物の発酵よもぎを使います。また様々な症状にそれぞれ個別に対応(注2)するため、この発酵よもぎに漢方、薬草をブレンドして使うのです。

ここで一つ、自分で採取する場合には注意しておくことがあります。

野草、薬草を野山を巡って自分で採取するのはとても楽しいことですが、都市化された街の周辺では危険もあります。よもぎは繁殖力が強く、道端や空き地、海や川の土手にも地下茎を張りながら繁殖しているのをよく見かけます。昔はそうした生活空間の近辺で採取したものがすぐ使えたのですが、近年は化学合成された無機系の殺虫剤や除草剤などが使われている恐れがありますので、公園などで採取したものは注意して使わない方が賢明です。

自生しているものでも、山間部で自然な管理採取をしている専門家や、専門の農家が管理栽培しているものが安全です。

よもぎの有効成分

フィトンチッド(Phytoncide)

ロシアのポリス・トーキンによって1930年頃命名された、このフィト(Phyto=植物)チッド(cide=殺)という造語は、特定の成分名というよりは、植物の生理活性によって放出される揮発性物質の働き(効果)のことです。植物にとっては自己保身と修復能力の一つですが、森林全体の芳香の中に人間が入っていくと、人間の心身にもとても良い生理的効果を及ぼすことが知られていて、これが森林浴と呼ばれているものです。

精油に含まれる植物性テルぺノイド(Terpenoid)には抗菌性・抗腫瘍性があり、薬草治療によく使われますが、これもフィトンチッドに含まれる成分のひとつです。またヨモギ、ニガヨモギに含まれるシネオール(Cineol)もそうです。シネオールは座薬として呼吸器系疾患や副鼻腔炎の治療にも使われています。

よもぎが風邪、インフルエンザ、喉、鼻の不調、花粉症の改善などに効果があると言われるのは、こうした成分の働きによるものなのです。薬用としてはユーカリ精油を蒸留して用いるのが一般的ですが、よもぎにも多量に含まれていて、その作用は脳神経の鎮静化に効果的で、気持ちを安定させ、睡眠を促す作用もあります。

クロロフィル(Chlorophyll)

よもぎに含まれるクロロフィル(葉緑素)の造血作用も見逃せません。これはクロロフィルが血中のヘモグロビンの生成を助けるからですが、よもぎが貧血の予防・改善に効果があり、冷え性、腰痛、神経痛の改善にも効果があるとされるのも、この作用が根拠になっているのです。また血液をサラサラにする作用とか、肥満を予防する効果が認められるのも、このクロロフィルに含まれる有機ゲルマニウム(germanium)の働きによるものです。

最近までは有機ゲルマニウムの働きについての研究が少なく、臨床例もあまりなかったために、その効果についても疑問視されていましたが、ここにきてたくさんの臨床例が報告されはじめ、学会での研究報告も数多く出てきたことで、医療現場でも注目されはじめているのです。中でも、抗腫瘍性についての発見(注3)により、発がん原因のひとつである染色体異常を抑制する効果が裏付けられたことになります。

ここで、有機ゲルマニウムがインターフェロンを誘発することを動物実験で確認した東北大学医学部の石田名香雄教授(細菌学)による研究の一端を紹介しますと、有機化合物として血液中に取り込まれたゲルマニウムが全身の細胞に運ばれ、細胞に新鮮な酸素を供給しながら細胞中にインターフェロンを産出させ、マクロファジー・NK細胞(免疫細胞)を活性化させるために、脳腫瘍、骨髄腫、白血病などのがんにも効果があると結論付けている(注4)のです。

こうした有機ゲルマニウムの含有量の多い植物には、高麗人参(特に紅參と呼ばれる6年根)、霊芝(マンネンタケ)、ニンニク、クコの実、ヨモギなどがあります。特によもぎは、その揮発性のフィトンチッドとの相乗効果により、ヒトの肌や粘膜から直接吸収されるため、効果が早く、広範囲の心身トラブルに対応することができるのです。

薬草座浴よもぎ蒸し

その蒸発成分

よもぎを主剤とする薬草座浴のことを一般に「よもぎ蒸し」と呼んでいますが、ここで使うよもぎは熟成させたものを使います。熟成よもぎだけを使ってもよいのですが、症状に合わせて、漢方薬や薬草を熟練の専門員にブレンドしてもらうのがいいでしょう。この質の良い熟成よもぎを鍋に入れ、煮たてながら、下から上がって来るその蒸気を体に直接浴びるのです。

なぜ蒸気を浴びるのかと言うと、体に付着したよもぎの有効成分であるクロロフィル(⇒有機ゲルマニウム)、βカロチン(⇒ビタミンA)やビタミンB1を含む各種ビタミン類は抗菌性の高い植物性テルぺノイドや喉、鼻の不調、花粉症の改善に効果のあるシオネール等の揮発性のフィトンチッドによって体の粘膜や肌からとても吸収されやすいのです。

つまり、もし、単によもぎの熱水抽出成分だけを必要とするのであれば、それは入浴時に煮出したよもぎの汁を風呂に入れたり、よもぎそのものを浴槽に入れるよもぎ湯というもので充分な筈なのです。それも非常に良い効果を得ることはできるのですが、やはり【薬草座浴・よもぎ蒸し】の比ではないというのも、この揮発性の芳香成分を体の深部に浸透させる方法として、蒸発成分を体に受けるよもぎ蒸しが最適な方法だったということなのです。

これはよもぎ蒸しを専門にしている人の間でも、意外に知られていないことでした。経験的にはよもぎ蒸しの効果を実感できていても、なぜ入浴では得られないほどの効果があるのかについては、私たちがその原理を解明し、合理的に説明するまでは、だれもうまく説明する人がいなかったのです。

黄土(ファント)を使う

具体的には、座浴専用の椅子の下からコンロでよもぎを燻蒸します。この時使う鍋や椅子は、韓国では昔から黄土(ファント)という土から作った陶器を使います。黄土と言うのは非常に浄化能力の高い微生物が生きている土で、化粧品や石鹸などにも使いますが、衣類を染めたり、現代では超高級な部屋をこの土で造ったりもします。安価なものにするためペイントにこの土を混ぜたものもあります。

こうした黄土の部屋で一晩眠ると、目覚めがとても爽快で、活力が漲ってきます。気持ちがとても落ち着き、アレルギーによるかゆみや呼吸器に問題のある人も、症状が驚くほど軽減されていくのが実感できます。そのため黄土部屋のある宿や黄土(ファントプルロ)漢蒸幕(ハンジュンマク)が人気があるのです。この黄土(ファント)で造った鍋は漢方薬を煎じる時にも専用煎じ器として使います。これで漢方薬や薬草を煎じると、鉄やアルミ、また普通の土鍋で煎じた時よりも何倍もの効果があると言われています。

それもそのはずで、中国では古来より黄土で造った竈の焼け土も、伏龍肝(ブクリュウカン)という婦人病、特に陣痛を軽減するための漢方薬として使っているのです。韓国忠清南道で産出される黄土(ファント)とはこの中国の黄土(オウド)と同じ多孔質の粘土ですが、遥かに繊細で良質なものなのです。マイナスイオンの放出量が多く、遠赤外線効果も加わり、薬草座浴・よもぎ蒸しの蒸気とともに放出される芳香成分フィトンチッドや有機ゲルマニウムの効果を相乗的に倍増するものなのです。

またさらに、この古来からの黄土よもぎ蒸しの座浴器の効果を高めるために、よもぎ蒸しの蒸気を黄土セラミックスボウルにヒノキチオールを含浸させた層からじんわりと放出させる手法で足浴も座浴もできるという理想的な薬草座浴器も造られています。よもぎ蒸しにこれを使えば、黄土(ファント)・ヨモギフィトンチッド・ヒノキチオールのトリプル相乗効果を体験することができるのです。

ヒノキチオールとのシナジー作用(多重相乗効果)

ここでヒノキチオールについて少し触れておきます。ヒノキの香りが精神安定にとても良いことは昔から知られていて、檜の家や檜風呂等を使うと、とてもリラックスできて自律神経の安定にも良いのです。ただ日本のヒノキも新しいうちはとても芳香がいいのですが、時間とともに次第にその香りも落ちてきます。実際、日本のヒノキにはヒノキチオールはあまり含まれていないのです。

ヒノキチオールというのはヒノキの精油成分ですが、台湾ヒノキとか青森ヒバ(ヒノキアスナロ)に多く含まれていて、これらのおが屑から抽出したヒバ油から分離精製して抽出したものなのです。

もともとヒバの樹液は切り傷や火傷の治療薬として使われていたものですが、その強力な殺菌・消炎作用や皮膚浸透性が着目されて、高価ではありますがとても安全な殺菌、抗菌剤として食品などにも用いられています(ヒノキチオールは食品添加物としても認可を受けています)。クラジミア・トラコマチスのような性感染症にもなるような菌に対する抗菌性もあるくらいですから、そうとう強力な抗菌性です。

カビ菌やダニの駆除にも効果があるため、寝具の清掃に使ったり、薬用歯磨きや空間殺菌・消臭剤、化粧品などにも使われているのです。またメラニン色素の抑制・排出作用がありますので、日焼けの沈着を抑えたり、シミ、そばかすの生成を抑え、軽減するローションも創られています。

ヒノキチオールの芳香成分も、よもぎ等と同じで、フィトンチッドですから、その蒸発(揮発)成分に主な効能があります。ではなぜ、同じような効能を示すよもぎとヒノキチオールを一緒に使うのかと言いますと、この二つを黄土(ファント)上に組み合わせると、とても良い相乗効果、ここではトリプル相乗効果とでもいうべき効果が見られるのです。

ただ、これら三つの効能をただ寄せ集めればいいのかというと、そう簡単なことでもないのです。一般によもぎ蒸しは下からコンロでよもぎを煮るのですが、炭や固形燃料、あるいは気体燃料のような火にコンロをかけて使うタイプには揮発性の高いヒノキチオールは使えません。そうかといって、磁気を使ったIHのようなものですと、黄土(ファント)が使えません。

そこで黄土セラミックスボールにヒノキチオールを含浸させて、熱源自体はIHを使うのです。このヒノキチオールを含浸させたセラミックスボール(=黄土ヒノキフィトン)は部屋に置いておくだけでも、ひじょうに空間清浄性に優れているのです。そのセラミックスボールの層の下からよもぎ蒸しの蒸気を上げて、よもぎ蒸しの専用マントのなかに、トリプル相乗効果を持ったフィトンチッドを充満させるのです。そのためにも豊富な経験に支えられたしっかりとした造りの座浴器が必要です。あまり安易な造りのよもぎ蒸しセットなどはただ安いからといって使わない方が賢明なのです。

よもぎ座浴と高麗人参紅參茶(ホンサム茶)

こうして座浴器から放出される煮たったよもぎの蒸気を体全体に浴びるために、脱衣した真っ裸の体によもぎ蒸し専用のガウンを羽織ります。このガウンの中に下から上がって来る蒸気を溜め込むようにして座っていると、蒸気に含まれた各種のビタミンや、クロロフィル、有機ゲルマニウムとともに植物性テルぺノイド、シネオールと言った揮発性のよもぎフィトンチッドが充満し、体を温めながら、肌や粘膜から体の深部まで浸透し始めます。

こうして体の調整機能が次第に高まってくると発汗作用とともにデトックス(解毒排出作用)が始まるのです。内臓機能が安定化に向かい、新陳代謝も活発化してきます。この時、同時にお茶を飲みます。お茶はよもぎ茶、高麗人参紅參茶(ホンサム茶)、水正東(スジョングァ)等を使います。これは発汗作用をさらに高めるためでもありますが、それぞれのお茶成分の効果をよもぎ蒸しの効果と相乗させたいという目的もあるのです。

これらのお茶の効用については韓国伝統茶についての別稿で詳しく述べますが、ここでは高麗人参についてだけすこし触れておきます。よもぎ蒸しの時に使うお茶も、その人の体調や体の問題点に合わせて選択します。例えば、気力・体力の充実に陰りがある時に一番使われるのは高麗人参です。高麗人参の中でも私たちが使う紅參(ホンサム)というのは、高麗人参の6年根(6年以上地中で育ったもの)と呼ばれる上質品のことです。これには、皺やニキビを治して、透き通るような美しい肌を造るといわれる、高麗人参だけが持つジンセノイドという有効成分の集合体が豊富に含まれているのです。

また、赤血球を増加させ、貧血状態を改善することで持久力のある強い体を造るサポニン、副腎の機能を高め、細胞を修復させてストレスに強い体質を作る各種のアルカロイド群は精神的なバランスの調整にも有効です。これについては漢方薬との併用の研究(注6)もされていて、その有効性が実証されています。

心も体も力を抜いて

それからもうひとつ同時にやることで、より効果的なことがあります。先にも書いたように、よもぎの芳香成分には自律神経を安定させ気持ちを落ち着かせる効果がありますので、その効果をさらに高めるために、自分自身でも、自らを深いリラックス状態に導くように、瞑想をします。

瞑想と言うととても熟練のいる技術のように思われるかもしれませんが、ここでは心と体から力を抜いて、より深くリラックスさせるという程度の軽い瞑想を考えています。

座浴用の椅子に腰を下ろし、背中をまっすぐ伸ばし、顎を引きます。肩の力を抜いて、意識をおへそのほんの少し下、指2本分くらい下に位置する丹田というツボに集中させます。意識が一点に集中して来たら、そこで意識しているという意識もなくしてしまいます。ここが「無の境地」といわれるものの入り口にあたります。はじめは誰でもうまくできませんが、やろうとしていれば、それだけで雑念からは離れられますので、回を重ねるごとに深い瞑想状態を得られるようになっていくものです。

よもぎ蒸しやお茶は外部からの身体的アプローチですが、そこに内面的、精神的アプローチを加えることによって、本当に深いリラックスの状態、心身ともに癒される時間を創造することができるのです。

このようにして、よもぎ蒸しは約40分位をめどに行うとよいでしょう。よもぎ蒸しを経験した人ならだれでも実感することですが、よもぎ蒸しを終えた後の体はとてもふんわりとしているのに、暑苦しさがなく、専用マントを脱いだ後の汗の残りを少しふき取るだけで、体がすっきりとしています。これは先に述べた揮発性の芳香成分のおかげですが、この状態をできるだけ長く保つのが芳香成分フィトンチッドの有効性を持続させるためにもよいのです。

よもぎ蒸しの後、直ぐにシャワーを浴びたり、入浴したりする人がいますが、これでは効果が半減してしまいます。よもぎ蒸しの後は、体も清潔で、体臭もなくなっていますから、そのまま一日を過ごしていただき、一日の終わりに入浴する場合には、よもぎ湯を使ったお風呂に入られるといいと思います。

注記・参考資料

(注1) ヨモギの動脈硬化予防・食材としての可能性を探る研究
平松直子(兵庫県立大学 教授)

(注2) 薬草座浴・よもぎ蒸しブレンド効果表(別紙附表)

(注3) 新規有機ゲルマニウム化合物Ge-132の抗腫瘍性
佐藤博・岩口孝雄

(注4) 有機ゲルマニウムの科学
-ガンと有機ゲルマニウム
-免疫調整作用と有機ゲルマニウム
石田名香雄(東北大学医学部・教授)

(注5)黄土・よもぎ・ヒノキチオールのトリプル相乗効果
三段重ね薬草座浴よもぎ蒸し・足浴器